【Vision1-3】

 

 トーナメントに向かうため外に出たものの、肝心のトーナメントが終了してしまったので私たちは町を散策することになった。目的は外界の知識が全くない私のための情報収集と、消えている記憶の取っ掛かりを探すこと。

「ここら辺は鉱山地帯なのね」

「そう。ここは鉱山地帯C地区、コス町。鉱山地帯では一番端っこだな」

「端っこ?」

「あー……鉱山地帯で一番外側にあるってこった。全ての街の真ん中が《大都市》。全体で円形になってんだよ」

「ふーん」

「ちなみにここらの鉱山は全部資源は出尽くしてるから、掘っても金とかレアメタルは出て来ないぞ」

「どの山も空っぽなのね」

「そーいうこと」

 周りを見渡す。カンカンに晴れた空。時々舞う強烈な砂埃。閉まってるのか開いているのか分からないぐらいシャッターがひしゃげたドラッグストア。窓ガラスが割られて一枚もないレストラン。荒れに荒れたすごい町だ。

「直さないのかな」

それらを見ながら呟く。

「直したらまた壊されるんじゃねえ?」

「……大変ね」

「――マスター、俺の後ろに」

「え? 何?」

ヴィンテージにやや強引に背に隠される。と同時に聞こえて来たのは男の人の声だった。

「手を上げろ! 幻影使いだな!?」

一瞬見えたその人の手の中で鈍く光るそれは――間違いなく拳銃だった。

「おっさん物騒なモン持ってるじゃねーか」

「おっさん? まだアラサーだ、アラサー!」

「古い言葉使うと余計におっさんくさいぞ、おっさん」

私を隠したまま、ヴィンテージは挑発をする。武器持ってる人を挑発するなんて正気?

「このヴィジョン生意気だな」

「マスター、あまり興奮しないように」

「分かってるよ。で、そっちのお嬢さんがユーザーか」

私は無言を徹し、ヴィンテージも警戒姿勢を崩さない。ヴィンテージの肩越しに向こうを窺うと、どう見ても軍人のような格好。完全武装、隣には相当頑丈そうな装甲を持ったヴィジョン。こっちは力もない子供、かつ丸腰。ヴィンテージの背中にほぼ隠れた状態のまま、私は話しかける。

「ヴィンテージ、小声でも私の声認識出来るよね?」

「もちろん囁きでもハッキリ聞こえるぜ」

「よかった。私が撃たれそうになったら守って。それから、すぐ逃げられるように準備しておいて」

「承知した、マスター」

「ありがとう」

彼の背からそろりと顔を出す。私の視界と向こうの視界が重なりお互いを認識する。いかにも軍人、という顔つきの男の人だ。一応、印象として怖い人には見えない。怖いのはその武装だ。

「拳銃が怖いので、下げてもらってもいいですか?」

「お前さん、丸腰か?」

「そうですよ。だから怖いんです。下げてください。ほら、何も持ってません」

両手を広げて、ヴィンテージの前に出る。

「……分かった」

彼はセーフティを掛けるのを見せて、銃を下ろしてくれた。話は聞いてくれるみたいなので、胸を撫で下ろす。

「ありがとうございます」

「いや、こちらこそ悪かった。見ない顔だが、いつこの町に来た?」

「分かりません」

「分からない?」

「気付いたらこの町にいました」

「……お前さんが古参ユーザーなら俺がこの町に来た時に遭遇しているはずだが、俺はお前さんに一度も会っていない」

「はい、初めてお会いしました」

「もう一度聞くが、いつ来た?」

「分からないんです。……記憶がないので」

「なに? ……ラッキー、このお嬢さんの情報見れるか? ユーザーなら検索が出来るはずだ」

「=検索致します。ユーザー情報、発見。ファーストネーム、スカーレット。ファミリーネーム不明。17歳。ユーザーランクS+。トーナメント経験なし=」

「トーナメント経験なしでS+!? どうなってんだ!?」

「ん? ユーザーランクってなに?」

背後のヴィンテージに聞いてみる。

「マスター、アンタの脳みそはスカスカか?」

「む」

「最初の授業映像でランクの話はしてたぞ」

「あー……そういえば。あそこら辺眠くって」

「そういうのはな、ジゴウジトクっていうんだ」

ぼそぼそと喋っていると元軍人さんがこっちを見る。

「トーナメント経験がないのにS+はおかしいぜお嬢さん」

「そうなんですか?」

「ああ。ユーザーランクは主にトーナメントの情報から付与されるもののはずだ、俺の記憶ではな」

「さっきも言いましたけど、私記憶がさっぱりないので。トーナメント記録がないならそうなんですね、としか言えないんですけども」

「……不正なユーザーランクでは?」

「幻影使いの基礎知識もないのに不正を? どうやって? なんのために? 登録が間違ってるんじゃないですか?」

「……」

「間違ったユーザーランクだと言うなら直してもらいます。問い合わせるとかして。だって不正をしたって利点がないもの。ヴィンテージ、私のユーザーランクは不正なものか確かめてくれる?」

「ユーザー情報、照会。ウィルス検知なし。バグ検知なし。不正アクセスなし。俺のマスタースカーレットの情報に改ざん、不正は一切ありません。規約に基づき正当な手順で登録、承認されています」

「だそうです。……ご不満?」

「不正がないなら、いい。でも不満だね。散々戦って勝ち残ってきた俺ですらA+だってのに」

「A+……。そういえば私先にプロフィール知られちゃって悔しいから、この軍人さんのユーザー情報検索してくれる? ヴィンテージ」

「かしこまりィ~」

「それ何語!?」

「ユーザー情報照会。ジェイミー・ディクソン。32歳、ユーザーランクA+。趣味は銃の手入れ。好きなことは昼寝。苦手なことは細かい作業。苦手なヒューマンは自分の母ちゃん。足の親指が極端に短いのがコンプレックス」

「お前!」

「余計な情報聞いた気がする……」

「マスターが屈辱的な扱いをされるのは俺にとって最高の侮蔑なんでね。仕返しに弱点まで検索しておいた。気は晴れた? マスター」

「どうもありがとう。そこまでしなくてよかったんだけどね」

「どういたしまして」

「この……」

「マスター、落ち着きなさい。彼の言うようにいきなり疑ってかかった貴方も大変に悪い。スカーレットさんに謝るのが先では?」

「…………」

「マスター」

「……悪かった。申し訳ない。謝る。この通り」

ディクソンさんは頭を下げた。向こうも、ヴィジョンの方が一枚上手みたい。

「謝って頂けたので許します。それから私のヴィジョンが失礼致しました。思ったんだけど、ディクソンさんよりラッキーさんの方が話しやすそうね」

「ええ、スカーレットさん。その通りだと思います。先程のマスターの態度の悪さをお許しください。この人はどうしても疑い深くていけない」

「このユーザー自分のヴィジョンにダメだしされてら」

「ふふっ。ダメよヴィンテージ、笑わせないで」

「はあ……さっきのトーナメントといいなんか散々だな今日は」

「あ、トーナメント」

「ん?」

「あー、えっと。トーナメントのために外に出てきたのに終わってしまったので、散策をしようと思ったところで貴方と出くわしたんです」

「なるほど。俺たちと同じ状態か」

「私たちはトーナメント前に交戦地の状態を観察しに来たのです」

「無駄に終わったけどな」

「無駄ではありませんマスター。スカーレットさんという謎めいた可愛らしい女性に出会えましたよ」

「お前なあ」

「おい、俺のマスター口説いたら承知しねえぞ”ホットプレート”」

「こら、煽らないの。AIも人間口説くの?」

「時々。AIによるが」

「あら」

「悪い。こいつ時々緊張感なくってな。それから口説く気はないと思うから安心しろ」

「そう、残念」

「マスター! 口説かれたいなら俺がしてやる!」

「貴方妬いてるの!?」

「妬くか! いや焼くわ! ヤキモチジュウジュウだっつの!」

「焼きモチ? モチってなに……?」

「餅って言うのは……」

「お嬢さん、話が長くなりそうなら俺は帰るぜ」

「え。あ、はい」

「帰る、ね。拠点持ちかおっさん」

「おっさんじゃねえって言ってんだろ! 挨拶したからって手の内見せる気はないからな。行くぞラッキー」

「はい、マスター。それでは失礼しますレディスカーレット」

「俺は無視かよ”ワンちゃん”」

「”生意気なクソガキAI”と”無駄話”はしたくないので」

「あっほらさっきのこと怒ってる。ヴィンテージ、謝りなさい」

「はァ~いはい、ごめんくさ~い」

「こら!」

「構いませんよレディ。それでは」

「本当に、ごめんなさーい」

私は手を振って二人を見送る。相手が見えなくなってから、ヴィンテージの方へ振り返る。

「あのね、あれじゃあんまりにも失礼でしょう?」

「ヴィジョン同士の応酬のことだったらほとんどわざとだぜ」

「え、うそ?」

「俺たちはそれぞれ違う主人に仕えているが生まれは同じ。兄弟も同然だからな。マスターの眼前ではあまり馴れ合わないようにしている。兄弟よりも主人を優先する、忠誠心を示すためなんだけどな。ケンカ腰っぽくなるのは嫌か?」

「あんまり好きじゃないかなあ。出来るだけ対立してほしくないし、したくないし。もう少し柔らかく接してあげて。他のヴィジョンにもね」

「承知したマスター。俺のマスターは随分お人好しのようだ」

「そんなことないよ」

「そんなことあるんだよな。ユーザーによっては優先的にヒューマンの方から潰そうとするやつもいるし、みんな仲良くなんて出来ないぜ」

「そうかもしれないけど、出来る範囲で努力したいじゃない」

「だから、そういうところがお人好しなの」

「そうかなぁ」

「そうだよ。で? 散策続行する?」

「うん。まだ何も調べてないし」

「承知したマスター。どこから調べる?」

「じゃあ……そうね、手頃にそこのディスカウントストアの中を調べようかな。物資は残ってなさそうだけど、一応見ておきたいの」

「承知した。靴はしっかり履いてるが、ガラスの破片がすごいから足下に気をつけろよ」

「うん、ありがとう」

「探索開始~」

「えいえいおー」

「えいえいおー」

私たちは、ゆっくり店の中に入って行った。

 

fin.